Kyoto Univ.- KAIST Joint Workshop
On Vibration Control Engineering
 
August 31 - September 1, 2006


工学研究科 精密工学専攻 山田 啓介,奥山 智尚

1. はじめに

2006年8月31日から9月1日の2日間,京都大学と韓国科学技術院(Korea Advanced Institute of Science and Technology,以下KAIST)の振動工学研究室の博士課程の学生を中心に,研究に関する意見交換と両大学の学生間の交流を目的として第1回Joint WorkshopをKAIST(韓国,Daejeon)において開催した.ただし,京都大学側は京都大学の学生に限定せず,京都府内の他大学にも声をかけ,同志社大学からも博士課程の学生が1名参加した.Joint Workshopの計画・運営は両国の博士課程の学生が協力して行った.ただし,京都大学の松久寛教授とKAISTのChong-Won Lee教授の協力を得て開催に至ったということを合わせて記しておく.日本側は京都大学から5名(松久研4名,市川研1名),同志社大学から1名(小泉・辻内研)の合計6名が,韓国側はKAISTから6名(Lee研4名,Park研2名)が参加し,英語で研究発表と意見交換を行った.本Joint Workshopの目的は,両国間の研究に関する情報の交換や英語によるプレゼンテーションの訓練にとどまらず,Workshopの企画と運営の経験を積み,その過程も含めて両国の学生達が交流し,お互いの文化を学ぶことにもある.そこで,本報告書ではWorkshopと両国の学生の交流の両方について述べる.

なお,京都大学から本Workshopに参加した5人の学生は,21世紀COEプログラム「動的機能機械システムの数理モデルと設計論」−複雑系の科学による機械工学の新たな展開−の助成を受けたことを付記し,謝意を表する.

2. Joint Workshop

8月31日,Kyoto Univ. and KAIST Joint Workshop on Vibration Control Engineeringが開催された.本Workshopのスケジュールを資料として後に示す.Workshopは4セッションからなり,1セッションに付き3名ずつ,日本側6名とKAIST側6名の博士課程学生が交互に研究成果のプレゼンテーションを行った.開会スピーチはKAISTのLee教授と京都大学の宇津野助教授が行ったが,全体の進行は学生により執り行われた.各セッションの座長は学生が行い,KAIST2名,日本側は京都大学2名がそれぞれ担当した(図1).各発表者の割り当て時間はプレゼンテーション20分,質疑応答5分だった.また,本Workshopでは5月にCOEの支援の元で行われた他分野の研究室同士のWorkshopの反省を踏まえ,前もって発表内容のアブストラクトを作成し,参加者に配布した.

研究内容は,「Vibration Control」の名の通りダンパ・板や梁および軸構造物の振動解析と制御が主であったが,それらに留まらない多様な発表が行われた(図2).ダンパについては,「Variable damping and stiffness vibration system with two controllable dampers(京大)」と「Reducing Floor Impact Vibration and Sound Using A Momentum Exchange Impact Damper(京大)」の数値計算及び模型実験結果が発表された.構造物の振動解析としては,「Dynamic response of golf club and sensor module development for virtual club fitting equipment(KAIST)」,「Extended Layout of Stiffeners to Increase Fundamental Frequency of Shell Structures(KAIST)」,「Modal Model Reduction for Vibration Control of Flexible Rotor(KAIST)」の発表があり,実際の製品開発を視野に入れた数値計算法の改良が示された.またKAIST側による「Design of the electromagnetic actuator with permanent magnet for the high efficiency and small size」と,「Low-cost Hybrid Active Magnetic Bearing with Hall Diodes used as Proximity Probes」で発表された実験機は,製品のプロトタイプとして高い完成度を持つものであり,KAISTにおける振動制御研究室の産業界との強い結びつきを感じさせるものだった.これら以外にも「Precise measurement technique of the electromechanical coupling coefficient of piezoelectric elements(京大)」および「Longitudinal acceleration wave decomposition in time domain with single point axial strain and acceleration measurements(KAIST)」では測定における新手法の基本原理が提示され,振動からやや離れた「Acquisition of slip phenomenon for developed distributed-type force sensor(同志社)」,「Prediction of the measured sound pressure of traffic noise using interpolation of the transfer function(京大)」,「Adaptive Output Regulation for Linear Systems(京大)」の研究が日本側から発表され,自分達とはやや異質の研究対象に対しKAIST側の学生達が興味を示す様子が伺われた(図3).

午前のセッション終了後,食堂で日韓の学生が入り混じって昼食をとった.食事中,学業に限らない普段の生活などに関する会話が学生間で交わされ,それぞれの環境で研究生活にいそしむ互いの姿を等身大で捉えながら,より親睦を深めることができた.昼食後はKAISTの研究室見学となり,学生達の共同部屋と実験室を見て回った(図4).実験室にはWorkshopの発表にあったもの以外にも多数の実験機が置かれ,中には実際に企業で製品化される段階に近い部品などもあって,産業界との太い繋がりを裏付けていた.

全てのセッションが終了した後,Lee教授が閉会の挨拶をされ,参加者全員で校庭に移動して記念写真を撮影した(図5).

図1
図1 座長を務める学生
図2-1 図2-2
図2 プレゼンテーションの様子
図3
図3 質疑応答の様子
図4
図4 KAISTの実験室
図5
図5 記念撮影

3. 交流会

Joint Workshopが開催された8月31日はKAISTの夏季休暇の最終日で,夕方から機械工学専攻の建物の中庭で専攻を挙げてのパーティーが催された.日本からJoint Workshopに参加した7人もそのパーティーに招待していただき,韓国の学生達と歓談を楽しんだ.このパーティーはKAISTの機械工学専攻で近年始まったもので,学部生から博士課程の学生,教員までが自由に参加できる.パーティーでは成績優秀者の表彰や,留学生による催し物などがなされ,途中で日本から参加した我々7人も紹介された.KAISTの留学生の出身国は中国等のアジアが多く,少数のヨーロッパ人もいるということだったが,日本人留学生はほとんどいないとのことだった.逆にKAISTの学生が日本に短期留学することはあり,今回のJoint Workshopで韓国学生側の代表だったJeonさんも昨年の夏季休暇中に日本大学に短期留学したとのことだった.パーティー終了後,場所を変えてさらに歓談を楽しんだ.日本側参加者のうち2人は中国人とインドネシア人だったので,4国の文化や歴史,大学のシステムの相違について話し合ったり,研究室生活を説明し合ったりした.

図6-1 図6-2
図6 KAISTで催されたパーティーでの様子

Joint Workshopの翌日の9月1日,韓国人学生のJeonさんとSeoさんの案内でソウル市内を散策した.KAISTのあるデジョンからソウルまではKTX(新幹線のようなもの)で50分程度であり,料金は19000ウォンと非常に安かった.ソウルでは景福宮を見学し,インサドンを経て,ソウルタワーに登った.市内の看板はほとんどがハングルで書かれているため日本人には理解できないが,2人の説明のおかげで困ることはなかった.韓国では日本食,日本映画,日本の漫画・アニメ等の人気が高いことが街を散策しているだけでもよく分かった.

図6-1 図6-2
図7 ソウル市を案内していただいた

最後にKAISTについて簡単に紹介する.韓国政府は人材育成と科学技術の発展の主導的役割を果たす研究機関の設立を計画し,1971年,韓国初の政府援助による,科学技術分野のみを専門とする大学院としてKAISTを設立した.KAISTは大学新入生500人の8割が高2からの飛び級入学(高3の1年間を入試に当てるのは時間の無駄という発想より)で,無学科,無学年で能力に応じて卒業できる学費無料の全寮制大学であり,大学院生の中には優秀な研究成果によって兵役免除の学生も多く存在する.韓国で唯一の科学技術省傘下の大学であり,日本と同様に資源の乏しい韓国の,人材育成によって経済的な競争力をつけるという国策の一つである.現在ではKAISTの卒業生が科学技術系の大手企業に多数採用され,韓国の経済を牽引している.

4. おわりに

こうして京大・KAIST双方の振動制御研究室を中心としたJoint Workshopは無事に終了した.以下に今回の感想および意見を述べる.

博士課程においても学生の国際的舞台での発表の機会は多くはなく,英語によるプレゼンテーションの経験を積む上でこのJoint Workshopは有意義なものであった.今回の発表を通じて,国際的に研究活動する上での英語力の重要さを留学経験のない学生たちは特に実感し,また自分の研究に対する別の視点からの意見・質問を受け,問題を多面的に捉える姿勢が鍛えられた.また,発表会だけでなく昼食や発表後の交流会により他国の学生達と対等な立場で親睦と理解を深めたことは,参加者の世界観を広げるだけでなく今後の研究生活における国際的な人脈を構築する礎となり,日韓両国の産学にとって有益であると思われる.

今回のWorkshopでは質疑応答の時間を5分としたが,活発な議論のために10分にすべきではないかという意見もあった.そこで,時間をオーバーしても議論が続いている場合は,質疑応答を打ち切らなかった.しかし,議論が英語力のある少数の人間中心に行われたことも事実である.また,英語力の問題で深い議論をできない場面が何度か見受けられた.このようなJoint Workshopはそれ単独ではなく,学生達の国際コミュニケーション能力を上げるような基礎があってこそ初めて真価を発揮すると思われる.KAISTでは教科書が全て英語で,授業の3〜4割が英語で行われているといい,実際に彼らの英語力は日本側の学生を上回るものであった.この事実を踏まえ,日本でも学生達の英語力を上げるようなカリキュラムを学部生の段階から積極的に増やしていくべきだと提言したい.

以上の感想および意見が次回のさらなる成功へと繋がれば幸いである.